見る前に書け!

見た後も書く

映画『終わらない週末』を見た!

SNSで評判を見かけ、気になったので見てみることに。

『終わらない週末』2023年

右二人が夫婦、左二人は親子
見る前

おそらくディストピアもの?ジュリア・ロバーツが出てるみたいだけど、終わらない週末というちょっとありきたりな邦題が絶妙なB級感を醸し出している。藤子・F・不二雄の短編集的な味わいがあったら好きかもしれない。

あらすじ

マンハッタンに暮らすアマンダとクレイは、束の間の休暇を郊外の貸別荘を借りて過ごすことにする。子供たち二人と都会を離れ、豊かな自然の中で羽を休める家族だったが、電波障害が起きてWi-Fiが使えなくなったり、遊んでいたビーチに巨大なタンカーが座礁したりと不穏な事が立て続けに起こる。その日の真夜中、この別荘の元の家主を名乗るG・Hとその娘ルースが停電を理由に泊めて欲しいと訪ねて来る。突然の来訪に不信感を募らせるアマンダだったが、クレイがどうにか説得し、地下に二人を泊めることにする。翌朝、停電がハッカーサイバー攻撃によるものだというニュースが流れ、そこから徐々に世界に異変が起き始める。電波は完全に遮断され、飛行機が次々墜落、動物たちは異常発生し、ときおり謎の怪音が耳をつんざく。原因不明の異常事態にパニックになる6人。一体、世界で何が起こっているのだろうか?

見た後

星新一の短編にこんな話があったような気がする。なんとなく小説向きな話だなーと思いながら見ていたら原作は小説らしい。話の抑揚はあまり無く、ラストまでうっすら気味悪く不穏な雰囲気だけがあり、あとはヒス気味なジュリア・ロバーツを延々見せられ続ける。正直退屈でしんどい映画ではあるけど、実際にこういう出来事があったとしたら、確かにこんな感じなんだろうなというある種のリアリティも感じた。世界が崩壊するとなった時に我々はまず絶対にその中心にはいなくて、なーんか変だなぁやばいなぁとうっすら思っていたら時すでに遅し、みたいなことになりそう。気付かないところで世界が崩壊していく、どでかいドラマの蚊帳の外にいる人間の不安や絶望を描いているという意味では、かなり恐ろしい物語だったし、自分も多分そちら側なんだろうなというのが目に見えているのが切ない。あと、終わり方は結構良かった。

映画『首』を見た!

遂に公開されたこの作品を見る。

『首』2023年

ビートたけし羽柴秀吉西島秀俊明智光秀
見る前

北野武映画の最新作。アウトレイジの戦国時代版という感じなんだろうか。正直歴史ものはあまり観てきてないのだけど、この感じは多分誰か個人を持ち上げるような英雄譚的なモノではなく、全員が等しく悪人で、泥臭く覇権を争うような、容赦ない殺し合いと騙し合いが繰り広げられるような気がする。北野映画を映画館で観るのは初めてなので楽しみ。

あらすじ

天下統一を目指す織田信長軍は毛利軍や武田軍との激しい戦いを繰り広げていた。そんな最中、家臣の荒木村重が謀反を起こし消息不明となる。信長は羽柴秀吉明智光秀ら家臣を一堂に集め、村重を見つけたものに自身の跡目を相続させると言い放つ。秀吉の弟・秀長と軍司・黒田官兵衛の策略により捉えられた村重は光秀に引き渡されるが、光秀は村重を自身の城に匿う。一方、村重が一向に見つからずに苛立つ信長は、ある疑いを持ち始める。信長、秀吉、家康、光秀。野心に燃える彼らのそれぞれの思惑と策略は交錯し、お互いの首を狙い合いながら時代は歴史に残る謀反《本能寺の変》へと突き進んでいく。

観た後

日本史における最も有名な謀反である「本能寺の変」を監督独自の解釈で描いた作品。今までの作品がどのような解釈で描いていたのかは詳しく分からないけれど、これはこれでありえた歴史なのでは?という気持ちになった。とにかく登場人物全員が狡猾で腹黒く、たとえ味方であろうと完全には心を許さず、使えるものは使い、家臣ですら隙あらば殺してしまえという非情さを持っていて、誰もが自分が天下を取ることしか考えていない。しかし、戦国時代の武将という地位にいる者達が野心家であることはまず間違いないわけで、そこに仁義や忠義というものを尊ぶ精神があったかと言われれば無くて当然とも思える。織田信長は傍若無人の限りを尽くす狂気のカリスマ、羽柴秀吉はとにかく狡猾な野心家、徳川家康は飄々として用心深い。そんな彼らに翻弄される明智光秀やそれぞれの家臣達など、人間味にあふれる泥臭い人物造形がより強い説得力を持っているように見えた。また、秀吉と秀長と黒田官兵衛の三人のぐだぐだとしたやり取りなども、北野映画特有のギャグでありながらこのぐらいの冗談の飛ばし合いはあっただろうと思わせられた。

作中ではとにかく首が刎ねられる。そして誰もがライバルの首を取りたがる。首を取ること=手柄を挙げるということで、それに躍起になる姿は正しくもあり、ある意味滑稽でもある。それはこの映画の主題、そして現代にも通ずる人間の愚かさだとも感じた。誰もが誰かの上に立とうとして、他者の首を狙う。そして首を取った暁にはこれ見よがしに見せびらかす。しかしそこにあるのは一時の名声に過ぎず、誰もが誰かに首を狙われているという虚しさばかりが漂っている。今作の登場人物は誰一人として幸せにはなれないし見えもしない。曽呂利新左衛門がつぶやく「みんな、阿呆か」という言葉がやけに耳に残った。

映画『犬神家の一族』を見た!

 

犬神家の一族』1976年

美女設定のハードルを軽々飛び越える島田陽子
見る前

パロディネタは腐るほど見てるけど原作は未見、という作品の一つ。金田一耕助、スケキヨ、湖逆さ足などの名物キャラクターやシーンがどういう風に出てくるのか。あとは邦画ミステリーやサスペンス特有の湿っぽくて嫌〜な雰囲気もどう味わえるかも楽しみ。多分だけど、あのゴムみたいなマスクを被ったスケキヨが実は別人と入れ替わってた的なのはあるだろうな。

あらすじ

製薬会社として財を成した犬神家の当主・佐兵衛が亡くなった。佐兵衛は生涯正妻を持たず、母親の違う三人の娘と婿養子、孫息子達がその最後を看取った。残された一族の者達の関心はその莫大な遺産の相続先に集まるが、顧問弁護士の古舘が遺言状は一族全員が揃わない限り開封することは出来ないといい、皆は長女・松子の息子で戦地から復員したきり戻らない佐清の到着を待つこととなった。
時を同じくして、犬神家の内部調査の依頼を受けて東京から私立探偵の金田一耕助がやってくる。が、犬神家に引き取られた養女の野々宮珠世の乗った手漕ぎボートが沈められたり、金田一に依頼をした古舘の助手の若林が何者かに毒殺されたりと、遺産の相続争いに暗雲が立ち込めていく。そんな中、戦地で負った傷を隠すためにゴムマスクを被った佐清が母の松子と共に到着。遺言状が開封されることとなった。金田一は古舘の依頼で、若林の代理人として遺言状の開封に付き添うことになる。
その遺言状には《犬神家の家宝及び財産全てを佐兵衛の恩人・野々宮大弐の孫娘である珠世に、孫息子の佐清・佐武・佐智の中から結婚相手を選ぶことを条件に相続させる。珠世が相続権を失った場合や相続者が死んだ場合は、残された孫息子及び(佐兵衛の愛人であった)青沼菊乃の息子・静馬に分配する》という旨が書かれていた。三人の娘とその息子達はその内容に憤慨し、どうにか遺産をせしめようとそれぞれに動き回り始めるが、ひとりまた一人と残忍な方法で殺害されていってしまう。金田一はその卓越した洞察力と推理力で、犬神家の一族に隠された秘密と事件の真相に辿り着いていく。

見た後

面白かった。全体的に薄暗く湿っぽい雰囲気、一族の欲と陰謀にまみれた遺産相続争いという設定、ダリオ・アルジェントばりの血飛沫殺害シーンなど、邦画特有の重苦しさやホラー要素もありつつ、金田一と宿屋の女中や警察署長のコミカルなやり取りが一服の清涼剤の役割を果たしていたりと、エンタメとしてかなり緩急のついている映画で、公開から50年近く経った今でも遜色なく楽しめる。そう、エンタメだった。ミステリーとして見ると腑に落ちない点がポロポロと出てきてしまうけど、画のインパクトや展開力があるのでさほど気にならずに見れた。欲を言えば複雑に入り組んだ犬神家の一族家系図が初見だと少し分かりにくいので、そこさえスッキリ説明がなされていればもっとスッと入り込めたんだろうな。

余談として、大好きなドラマ『TRICK』シリーズに「黒門島」や「六つ墓村」など金田一耕助シリーズのパロディが盛り込まれているのは知っていたけど、警察署長がざっくり推理を披露する際のポーズがそのまま矢部警部補の推理ポーズに引用されているのは今作を見て初めて知った。こういう発見があると余計に楽しい。

映画『HANA-BI』を見た!

新作『首』が公開される前に北野映画はさらっておきたかった。

HANA-BI』 1997年

この時のビートたけしは激渋
見る前

北野映画は『ソナチネ』『菊次郎の夏』『あの夏、いちばん静かな海。』を見たけど、これはソナチネ寄りの作品なんだろうな。タイトル通り花火があがるんだろうか。とにかくビートたけしの見た目が激渋ヤクザすぎる。

あらすじ

刑事の西は張り込みの途中、同僚の堀部に変わってもらう形で病気の妻の見舞いに向かう。そこで妻が余命幾許もないことを知らされる。災難は続き、追いかけていた犯人によって堀辺が撃たれ下半身不随の重傷を追い、部下の田中は凶弾に命を落としてしまう。西はその場で犯人を射殺し、刑事を離職する。その後、西は残りの時間を妻と過ごすためにヤクザに金を借りながら生きるが、返済が滞り首が回らなくなっていく。借金の返済、同僚や後輩の親族の面倒、そして妻との残り僅かな時間を過ごすために、西はある計画を実行に移し、壮大な逃避行を開始する。

見た後

面白かった。『ソナチネ』と『あの夏〜』のちょうど中間ぐらいをいった、一番バランスが取れていて映画的に美しい作品。前半の生き地獄のような展開、からのタガが外れて壊れ始める日常。そして行く先は破滅と分かっていながら進むしかない夫婦の道中を分かりやすく悲劇的に描かないところが余計にくる。西と奥さんがちょっとした失敗で笑い合うシーンが本当に切ない。

作中には刑事とヤクザが出てくるけど、あくまでも名前は記号で本質はどちらも一緒だなと思ったし、意図してそう描いている部分もありそうだと思った。特に西は刑事側だけどマインドは完全にヤクザで、身内には優しく、それを脅かす他者には容赦ない。まさにたけし軍団を束ねる頭でもあった本人を投影したキャラクターなのかもしれない。

映画『イレイザーヘッド』を見た!

さて、本日見た映画はこれ。

イレイザーヘッド』1976年

クリーチャーの見過ぎでもはや可愛いまである
見る前

いつかデヴィッド・リンチには触れておかなければと思って数年。ようやく決心がついた。
とにかくカルトな人気の高い映画、全編モノクロ、シュールな物語、もじゃもじゃ頭の主人公と謎のクリーチャーみたいな生き物が出てくるという部分だけ知っている。正直あんまり分からんのだろうな、でも分からなくてもいい。食わず嫌いをやめたい。

あらすじ

もじゃもじゃ頭のヘンリーは恋人のメアリーの家族と夕食の最中に、メアリーが赤ん坊を産んだので結婚しろと迫られる。しかしその赤ん坊は手足がなく魚のような顔をした謎の生物であり、メアリーの子かどうかも定かでない。ヘンリーとメアリーは新婚生活を始めるが、赤ん坊の奇妙な鳴き声にメアリーが耐えきれずに出ていってしまう。そこからヘンリーは様々な悪夢的現象に苛まれていく。

見た後

ひえー、やっぱり難解。台詞は殆どなく、シュールで不気味、熱でうなされた日に見る悪夢を映像化したような作品。ただモチーフだけで見れば、なんとなく読み取れるものがありそう。

恋人のメアリーや不気味な家族は理解の及ばない他人への恐怖、泣き叫ぶ奇形の子供は不安のメタファー。妖艶な美女は一度肌を重ねるものの別の禿げた中年男に靡いてしまう。そこには性行為、あるいは男性としての自信のなさが描かれているように見える。ヘンリーがメアリーとの肉体関係を頑なに濁し続けるのは、例えば勃起不全などで最後まで及べてないからで、そのトラウマの具現化があのグロテスクな精子型の胎児なのかもしれない。

そして最後、ヘンリーは霧の中で顔の膨れた女と抱き合い安堵の表情を浮かべる。彼女は精子のような胎児を踏み潰しており、子供を作らない、肉体関係を持たないプラトニックな愛の象徴という事なのではないか。

冒頭とラストに出てくる肌の爛れた男の存在や、中盤の取れたヘンリーの首で消しゴム鉛筆を量産するシーンは今ひとつ分からないけど、観念的なものを描く際にシュルレアリスムの手法はぴったりな手法だし、分からないけど分かる、分かりたくなるという域にまで達しているからこそ、デヴィッド・リンチががカルトの帝王になりえた所以なのかもしれない。